コロナ禍により、世界中の誰もが数週間後の未来をも見通せない日々を過ごしています。我々は、何を指針にビジネスの舵取りをすれば良いのでしょうか? 確かに言えるのは「このコロナ禍はいつか終息する」ということです。そして、もう一つ言えるのは「終息に向けた段階がある」ということです。そこで本稿では、コロナ禍終息までを5段階に分けて市場想定を行います。くわえて、各段階に応じた宿泊事業者の営業戦略を考察します。
結論:「段階的変化への対応」が最重要ポイント!
本稿では、先に結論を記します。コロナ終息に向けて、これから社会と市場は日々変化していきます。その変化に対応出来るかが、コロナに負けない経営の舵取りとなります。5段階の状況を理解し、自社に合った営業戦略を事前事前に構築し実施することが肝要です。
以下の資料は、本稿の内容をまとめた「アフターコロナの市場想定&営業戦略」です。印刷も想定しA4版のPDFにまとめました。リカバリーガイドとしてお役に立てれば幸いです。
それでは、「5つの段階」を詳しく解説していきます。
アフターコロナ0.0
2020年5月14日現在、東京・大阪をはじめとして全国的に外出や営業の自粛要請が発令されています。コロナ禍真っ只中の現在の状況を、本稿では「アフターコロナ0.0」としました。「アフター」の文字が付いていますが、「0.0」・・・つまり、まだコロナ禍真っ只中とご理解ください。
「アフターコロナ0.0」の現在、経済活動は大きく低迷し、特に観光業・宿泊業・飲食業などは壊滅的な被害を受けています。既に、倒産・廃業した企業もあり、事態は深刻です。大半の宿泊事業者は、資金繰りに奔走すると伴に、コスト削減を強化し、まずは生き延びることを最優先に日々を過ごしています。
「アフターコロナ0.0」において取るべき営業戦略は、大きく2つです。1つ目は、自社が持つリソースは何かを棚卸し、どう活用するかです。個々の施設は、自社が想定する顧客ターゲットの利便性を最大化するため、施設機能・サービスを強化してきていることと思います。マーケティングの教科書では、ターゲットに合わせ機能を絞り、メリットを明確(先鋭)化することを求めてきました。今回のコロナ禍によって、これまでの多様な行動形態が制限されます(例:団体行動ができない)。現有施設において、新しい要件に応える商品をどのように作るか準備する必要があります。
加えて、自社のリソースを使って、リソース不足になっている業種・ニーズに応えられないかを考える必要があります。たとえば、「人」に着目すると、ヒルトンがアマゾンに出向者を出したのは良い例です、ヒルトン本社は「従業員(ヒューマンリソース)」が余り、アマゾンはネット通販特需で人員不足、という2社の状況を結びつけたわけです。また、旅館の従業員が近隣の農家へ働き手として出る事例もあります。海外からの実習生が入国できず人手不足に陥る農家と、休業中の旅館従業員、両社のニーズが結びつきました。旅館再開後には「私も手伝ったんですよ」とお客様に地元食材を使ったお料理の提供ができると素晴らしいですね。この他、自社が持つ様々なリソースの棚卸と活用を検討しなければならないのが、アフターコロナ0.0の営業戦略1つ目です。
2つ目は、自粛解除に向けた準備です。自粛解除後すぐは「少ないお客様の取り合い」になるため、その状況を想定した事前準備がアフターコロナ0.0の鍵となります。平素は忙しく、WEBでの情報発信が疎かになっていたのであれば、今は絶好のチャンスです。また、既存客へDMを送る準備をするのもよいでしょう。普段はなかなか手が回らない細かな箇所の徹底清掃もできますね。もし資金に余裕があるならば、この時期に改装・改築を行なうのもよいでしょう。休業中または稼働が低い今だからこそ出来ることを探して、縮んだ市場の中で生き残るための準備が必要です。
アフターコロナ1.0
都道府県ごとに、あるいは地域ごとに、段階的に自粛が解除される状態、これが「アフターコロナ1.0」です。いよいよアフターコロナの第一歩を踏み出しました。この段階では、まだまだコロナ感染へ強い警戒心があります。そのため、衛生管理の徹底が集客のポイントとなります。
単に、
・衛生管理を徹底しています
・客室の除菌・消毒を徹底しています
・アルコールスプレーをご用意しています
などの抽象的なアピールではいけません。どのように徹底しているのか? どのように清掃・除菌・消毒しているのか? など、衛生管理体制を具体的に示すことで、安心に繋がります。
たとえば、
・各階エレベーターホールに、アルコール除菌スプレーを設置しています
・客室内は、平素の清掃にくわえて、ドアノブ、椅子、テーブル・・・をアルコール除菌し、その後2箇所の窓を開けて15分以上換気しています
・従業員の健康チェックは、(いつ、どのような内容で)行なっています
などと、具体的な説明が「安心・安全」というサービスに繋がるのです。そして、お客様と従業員が互いに「感染させない、感染させられない」衛生管理が大切です。
また、衛生管理ガイドラインを設けているのであれば、それを示すことも重要です。もし、衛生管理ガイドラインのご用意がまだないのであれば、当サイトでも複数のガイドライン(①、②、③)をご紹介していますので、是非ご参照ください。
さて、「アフターコロナ1.0」では、どのようなお客様が想定されるのでしょうか。ビジネス出張の需要がまず動き出すと想定されます。一方、レジャー客が大半のホテル・旅館はまだまだ苦しい段階となります。「アフターコロナ1.0」では、レジャー目的での長距離移動客は期待薄となるでしょう。そのため、域内の近距離客をどう取り込むかがポイントとなります。その際、これまでの常識を越えた発想も必要となります。たとえば、旅館は宿泊施設として売るだけではなく、近隣の家族、カップル、友人同士が立ち寄れる飲食店としての営業も一案です。近隣住民の飲食利用なら単価は下がるでしょう。浴衣を着ずに食事をすることになるでしょう。そうなると、これまでの宿泊客との共存が難しくなります。しかし、共存させるためにはどうしたら良いのかを考えてみることが重要です。従業員のシフト問題はクリアしなければいけませんが、客室のデイユース、食事処のランチ営業やカフェ営業も考えられるでしょう。また、少ないお客様を域内で取り合った結果、共倒れになっては意味がありません。その解決策として、岐阜県・長良川温泉の取組みは参考になります。
また、後述する感染拡大第2波3波に備えて、資金繰り・財務改善および追加の資金確保も必要です。これらの備えが、第2波の防波堤となります。
アフターコロナ2.0 (感染拡大再び)
段階的に自粛が解除され、人々の交流・往来が増えることにより、再び感染拡大が発生すると想定されます。いわゆる、感染拡大第2波/3波です。第2波3波が襲来すれば、再び自粛状態へ戻ってしまいます。これが「アフターコロナ2.0」です。感染規模と自粛規模により、「アフターコロナ0.0~1.0の初期状態」に逆戻りします。もしそれが、主要都市部の全面自粛再要請となれば、2020年5月の経済状態を下回る可能性もあります。どのような市場状況になるかは分かりませんが、いずれにしても「感染拡大第2波は必ずやって来る」との想定の下、前述の様なこれまでにない様々な営業施策を実施して備えておく必要があります。
アフターコロナ3.0
感染者数が大幅に減る(実効再生産数の大幅減)か、ワクチンが使用可能になった状態が「アフターコロナ3.0」です。ワクチン開発成功のニュースにより市場は一気に上向きになると想定されます。しかし、本格的に経済活動が再開するのは、十分な数のワクチンが市場にて使用可能な状態となり、且つ、医療崩壊懸念が払拭された状態からとなるでしょう。ここからは一気に市場は元に戻り、団体客、広域からのレジャー客が増えるでしょう。
しかし、問題も。コロナ禍による退職や解雇などで人員が不足している場合は、人材確保が急務です。人材不足のまま営業を継続すると、従業員疲弊により更なる人材不足を招きかねません。合わせて、サービス劣化・不十分な衛生安全体制を招きかねません。“人材”が商品であり主要戦力であるこの業界にとって従業員の環境(労働環境)も顧客対策と同様に重要であることは、再認識する必要があります。
この他、倒産・廃業により閉館した施設が域内で散見される場合は、観光客へのイメージダウンとなります。この場合、地域が一体となり対策およびイメージ戦略を講じる必要があります。
ニューノーマル形成1.0
コロナショックが落ち着いた後の世界。これが「ニューノーマル形成1.0」です。コロナショック以前と同様に国内広域からお客様が訪れ、インバウンド客も戻ってくる市場状態です。コロナショックを経て、どのようなニューノーマルが形成されているかは分かりません。アフターコロナ0.0~3.0を乗り越えるために、各事業者は様々な新しい取組みをしてきたことでしょう。そのため、コロナショック以前とあまり変わらない営業戦略では、「ニューノーマル形成1.0」以降の市場では競争力不足になる可能性も大いにあります。“変化に対応し進化する経営/営業”が長期生き残りの勝ち組となるでしょう。
多くの企業の自己資本比率が他業種と比較して低く、資金調達手段として間接金融が主体のB/S構造は、「アフターコロナ0.0」において運転資金確保のために奔走した状況を繰り返すことになります。長期生き残りのためには、B/S構造の大幅な見直しも必要となります。
以上のように、コロナショックを乗り切り「ニューノーマル形成1.0」を目指すためには、各宿泊事業者は様々な知恵と工夫が求められます。くわえて、宿泊事業者だけでなく観光関連事業者一丸となった協力関係が必須です。DMO、DMCに対して従来にも増したリーダーシップが求められるのかもしれません。