どうなることかと思っていたコロナ騒動もようやく収束する可能性が出てきたところですが、ここからは一時返済を猶予されていた銀行借入の元本返済も再開されることになるので、旅館業も本来の事業収益力を回復し、本格的に事業を成長・発展させていくことが必要であり、次世代への事業承継計画を確実に策定・実行することで、何としても旅館事業を継続していく必要があります。まずは、目の前の資金繰りなど喫緊の課題について対策を考えることが重要ですが、将来に向けて抜本的な事業再構築を考え、事業存続を確実にするためには、これまでと同じ経営を繰り返すことは不可能だと思います。そこで、前回のコラムの後編として、旅館業を中心とした地域における関係者が一体となった、「旅館業の地域一体再生」のスキームをご提案させていただきたいと思います。
1. 前編のおさらい(旅館業の重要課題)
(ア) 後継者不足を原因として廃業する旅館が増えている。
(イ) 収益力が低下して、債務超過に陥っている旅館が多い。
(ウ) 収益力回復の必須要素である「設備投資」資金が調達できない。
(エ) 廃業旅館が廃墟となり、観光地としての魅力が落ちている。
2. 旅館業の地域における貢献可能性
旅館業は、そもそも当該地域において地元住民の温泉活用として湯治場の役割から出発したものと思います。それが、高度経済成長期において、当地の観光施設の一環として外来客の集客施設として発達し、現在のような経営形態となっているものではないでしょうか。従って、現在においては当地の様々な関係者にとって、大いに影響のある産業となっているはずであり、今一度この地域における旅館の貢献について検証しておきたいとおもいます。
① 地方自治体にとっての旅館業の意義
日本政府が観光立国を謳って、国をあげて観光産業を大きな柱にしようとしている現在において、温泉街を有する地方自治体にあっては、地域の産業振興として旅館業に大いに活躍してもらう必要があります。地方創生の重要な貢献産業として旅館業を位置づける必要があると思われます。
② 地域金融機関にとっての旅館業の意義
金融機関にとっては、かつて不動産を多く保有する旅館業は、担保を有する優良な貸出先として、時には不必要と思われるほどの融資を行ってきました。地域における重要な貸出先としての旅館業を支援し続ける必要があると思います。
③ 地元観光施設・商業施設にとっての旅館業の意義
地方によっては、旅館街との連携で観光施設や周辺商業施設が潤っているケースがあります。本来、集客施設と宿泊施設は相互補完関係が形成されるものと思います。
④ 地域住民にとっての旅館業の意義
地元の学校を卒業した学生の就職先として、地元の会社が選ばれないというのはその地方にとって衰退を意味します。旅館業が住民にとっての収入の糧となるように旅館そのものが魅力を持てる企業となるべきだと思います。
⑤ 地元農林水産業にとっての旅館業の意義
第一次産業の出荷先が、東京や大阪といった大都市ではなく、地元の産品が地元で消費されるために、旅館は地域で連携して、市場を通さない流通経路を確立すべきではないかと思います。すぐ近くの漁港で上がった魚介類を地元の旅館が仕入できないというのは非常に不幸なことです。
⑥ 観光客にとっての旅館業の意義
バブル経済崩壊後、大型の旅館の倒産が相次ぎ、全国チェーンの旅館運営会社が地元の歴史や伝統のある老舗大型旅館を買収して、今や全国どこにいっても代わり映えしない旅館サービスとなってしまっています。観光客は、その土地土地の特徴のあるサービスを求めているはずです。
3. 旅館業の根本的な課題解決としての「地域一体再生スキーム」
以上、みてきたように、当該地域における旅館業は、どの関係者にとっても重要であり、かつ事業存続を希望する産業であると思います。そのことを前提として、私は2005年から「旅館業を中心とした地域一体再生スキーム」を提唱してきました。下記にその主旨を記載しますが、詳細については別の機会にご紹介したいと思います。ご興味のある方は、是非個別に御連絡をいただければ大変幸甚に存じます。
(ア) 旅館の経営は、不動産資産を持つ「所有」と、お客様をもてなす「運営」と、その間にあって、従業員を雇用し、資金調達や設備投資の意思決定をする「経営」の三つに分けて考えることができます。
(イ) 地域一体再生の基本的な枠組みは、複数(5軒~10軒程度)の旅館の経営を統合してひとつの「○○地域旅館経営会社」を設立し、その経営会社から元々の旅館に個別に運営を委託することです。所有については、いったん地域再生ファンドなどの機関投資家に時価で買い取ってもらうことで、銀行債務を適正な金額に修正することが可能です。
(ウ) この「○○地域旅館経営会社」を設立する大きなメリットは、従業員の雇用を一手に引き受けて、繁閑に応じて各旅館に人材派遣できることと、加工食品の一括購入による経費削減、そして地元食材の直接買い付けが可能となる仕入規模の確保にあります。また、広告宣伝や代理店との契約においてもかなりの節約が期待できるものと思われます。
(エ) 経済産業省は、規模の利益を追求するためにM&Aによる合従連衡で中小規模の旅館業を集約しようと考えている節がありますが、それではこれまでの各旅館のよさ(文化)がきえてしまう恐れがあり、また家業として営んでいる結束力が崩れてしまいかねません。そうではなく、経営さえ統合してしまえば、様々なメリットがでることを認識していただきたいと思います。
以上、今回はごく簡単に「地域一体再生スキーム」についてご紹介しました。少しでもご興味のあるかたは、是非お問合せくださいますようお願い申し上げます。