5月25日、緊急事態宣言が全国で解除されました。今後、休業要請は業態に応じて段階的に取り下げられてゆくこととなります。当サイトにおける人気温泉地休業状況調査でも、6月1日から営業再開する宿が一気に増えています。全国の旅館・ホテルが、今まさに不安をいだきつつ営業再開への準備を進めていることと思います。
営業再開にあたっては「アフターコロナの市場想定&営業戦略」や「OTA販売プランに見る各旅館のコロナ対策状況」でも示した様に、まずはしっかりとしたコロナ対策をすることが前提ですが、その後の営業方針はどの様に考えるべきでしょうか?
自館での感染拡大への懸念もありますが、売上回復の目処が立たないことが大きな不安要素としてあります。
資金ショートに備え金融機関へ融資の依頼を行ったところ、事業計画(特に売上計画・収支計画)の提出を求められ、作成しようにも「お客様がいつ戻ってくるか全く読めない」と途方に暮れてしまったケースもあろうかと思います。
今回は金融機関への提出も想定した、営業再開後の売上計画の作成について押さえるべきポイントをいくつか紹介させていただきます。
営業再開後の売上計画作成のポイントは「営業抑制と緩和を繰り返し、アフターコロナまで耐えてゆくための『作戦』を示すこと」
「インバウンドは少なくとも今年一杯は無理だろう」「国内も、団体旅行がすぐに回復するとは思えない」…感覚的には思い浮かぶものの、いざ売上計画作成となると、6月は前年の10%、7月は前年の20%…と何となく数字に落とし込んでしまうケースが多いかもしれません。
売上を厳しく見積もって、それでも利益が出せる or 赤字幅を抑えられるものであれば、何とか計画は通るかもしれませんが、多くの場合この様な「受け身」の売上計画は好まれません。
POINT① 従前の客層に関する今後の「読み」と「作戦」を示す
旅館・ホテルの売上は、形態の異なる様々な客層売上の積み上げです。
・国内 / 海外
・団体 / バスツアー団体 / 個人
・リアルAGT / ネットAGT / 直販
・地元客 / 首都圏客 / その他
…など様々な切り口がありますが、まずは従前の各月自館売上がどの様な構成で積み上がっているのかを明らかに示します。※どの様な切り口が適しているのかは各宿によって異なります。大型旅館の多くで当てはまるケースを以下に例示します。
その上で、特にマイナス需要に関する「読み」を入れます。
・インバウンド需要
・国内団体需要
・夏休みが短い可能性の高い今年8月のファミリー需要
・出控えムードにおける個人旅行需要
などが挙げられます。
マイナスの「読み」は厳しく捉えておくことが重要です。想定よりも需要が高く、結果が計画を上振れしても何ら問題は起こりません。「コロナは夏には一旦収まるが、秋冬にまた再発することが考えられる」といった時系列的な「読み」を入れることもできます。
従前の各月売上から、マイナス需要を差し引いた分が「受け身」の場合の成り行き売上想定です。
これに自社の「作戦」を加えてゆきます。
・地元を中心とした個人の獲得(自粛疲れを癒やしたいファミリー層向けのプランなど)
・リピーターへのアプローチ
・自社HPやOTAサイトにて、コロナ対策をしっかりと明記、プラン拡充することでネット集客を強化
といった作戦が考えられます。
POINT② 縮小営業期と積極営業期のパターンを盛り込む
インバウンドや団体比率の高い宿などでは、ネット集客を中心とした個人客の積み上げだけでは十分な売上が得られないことが予想されます。この様な場合コストダウンに重点を置いた「縮小営業」を収支計画に盛り込む必要があります。例えば「縮小営業中は社員のみの出勤とし清掃等の外注作業も全て社員で行う」様な場合、対応できる客室数、休みの確保等の問題から「販売客室数の限定」「週末+αのみの営業」といった制限事項を売上計画にも反映する必要があります。秋冬でのコロナ再発を想定する様な場合は縮小営業と積極営業を繰り返す様な売上計画・収支計画もあり得ます。
POINT③ 当面はコストダウン策を盛り込んだ収支計画と連動したシビアな売上計画を
インバウンドや団体旅行といった需要を宿が単館で作り出せるものではありません。自粛解除後の少ない個人需要を取りにゆく作戦を盛り込むことはできるものの、従前のコスト構造を補って利益が出せるほどの売上を計画に落とし込むことは現実的ではありません。当面は、コストダウンに重きを置いた縮小営業期を組み込んだ収支計画と連動したシビアな売上計画を作成するべきだと考えます。
POINT④ 売れる部屋/売りにくい部屋を意識した営業計画を
「アフターコロナの市場想定&営業戦略」でも示したことですが、コロナ環境下では客層の変化に応じた柔軟な販売体制を構築する必要があります。そのためには、「売れる部屋 ⇒ 前面に押し出す」「売りにくい部屋 ⇒ 売れるように工夫する」対応が求められます。
売れる部屋とは「離れ」「露天風呂や温泉付きの客室」「料理の部屋出しや個室対応可能な客室」などです。スタッフやお客様同士の接触機会を減らしつつ自粛疲れを癒やすことのできる環境は多くのファミリー層が望むものでしょう。
売りにくい部屋とは、例えば間取りの大きな(多人数を受け入れられる)客室などです。従前では「3名1室~4名1室以上でなければ予約を受けない」様な客室でも、2名1室 或いは 1人旅といった客層にも開放することを検討すべきでしょう。
また、食事会場の対応限界を意識する必要もあります。個室対応できる会場数で限界が決まる場合もありますし、大広間でもお客様同士の卓を離した場合 受け入れられる卓数(予約数)に限界が生じます。どちらの場合でも「満館」の予約を受けきれないことになるため、繁忙日売上の想定を低く見積もる必要性があります。