新型コロナウイルス感染症の影響により、日本全国で発出されていた緊急事態宣言が次第に解除されています。従って、宿泊業の方々も営業を再開され、あるいは再開に向けて準備を進めておられることと思います。しかしながら、今年の初めからインバウンド客が大幅に減少したことに加え、国内の宿泊客が急減している状況から急速回復することは考えにくく、現状を踏まえた営業計画が必要になってくると考えます。したがって、中長期的視野にたった財務戦略について、しっかりと準備することをお勧めしたいと思います。今後、追加の資金を調達していくうえでも必要になると考えています。
1. 新型コロナウイルス感染症特別貸付について知る
政府は、今回のコロナウイルスの影響によって経営に支障をきたしている企業について、日本政策金融公庫と商工中金を活用した特別貸付の制度融資を用意しています。
この特別貸付は、民間金融機関の貸付に比較して非常に有利と思われますが、実際の運用については各地方の支店によってその対応が違っており一律にどのような財務状況や事業状況の会社であっても期待したとおりに利用できるわけではないようです、また既存の他の金融債務の借換に使うことはできませんから、継続的な資金確保のためには民間の金融機関との良好なコミュニケーションが必要になります。
したがって、この特別貸付を利用するにしても、お付き合いのある金融機関としっかり相談しながら、将来の計画を含めた全体の資金繰りを確認したうえで、特別貸付を活用されることをお勧めします。本制度を活用し、当面の資金繰りの目途をたてたうえで、営業再開後の経営計画をしっかりたてて、借入金の弁済計画を作成するという手順を踏みます。
また、借りるのはいいが、借金であることに違いないのだから、いずれ返済することを考えると多額の融資を受けることに躊躇があるという事業者さんもいらっしゃると思いますが、おそらく政府は、第二、第三の支援策を考えていることと思います。
そのひとつには、現在も政策金融公庫が対応している「劣後ローン」というものがあります。これは、通常の金融機関の融資よりも返済が劣後するというのが本来の意味ですが、実際には長期にわたって返済を猶予される「疑似エクイティ(資本)」と言われるもので、金融機関からみると「借入金」ではなく「資本」とみなすことができるため、超長期にわたって弁済計画をたてることが可能で、実質的な弁済負担を減らすことができるものです。
2. 金融機関との良好な関係を構築するための資料とは
二つの資料が必要であると考えています。
資金繰り表の作成
資金繰り表は、日常の必要な資金の過不足とその調達の可能性を検討する資料として非常に重要なものです。 金融機関との間でやり取りする財務資料は、一般的に決算関係書類(貸借対照表、損益計算書、月次試算表、資金繰り表等)ですが、資金繰り表はそのなかでも最も重要な書類であり、かつすべての経済活動が反映されたものとなります。
通常、資金繰り表は月次単位で作成しますが、 資金繰りが厳しく月中で資金不足となる日が出てくる場合は、 日次資金繰り表を作成します。 今後の資金繰りの予定をなるべく正確に把握するためには、 過去1年分の資金繰り実績と1年後までの予定を作成すると、会社全体のお金の流れが見えてきます。 資金繰り表は一度作成すれば終了ではなく、予算と実績の比較を行って資金繰り表の勘定項目に変化があり次第、 随時更新していくのがベストです。 また、中長期の資金繰りを作成することは、融資弁済計画をたてることになりますから、金融機関としてはもっとも知りたい貸出先の返済能力を説明することができる資料となります。
資金繰り表を作成するためには、 事前に下記にしめす計画が必要になってきます。 自分の頭の中で資金繰りは分かっているから必要ないと言う 経営者がいますが、大抵の場合は把握していないケースが多く、本当に活用できる資金繰り表を作成している施設は少ないと思われます。しかし、それでは事業の継続可能性が見えませんから、金融機関から信用される会社にはなれません。
資金繰り表作成に必要な計画等
・売上計画 (月次、部門別売上収入見込み、実際に回収できるキャッシュ)
・仕入計画・原価計画 (実績値は実数、予算は売上比率で計算することが多い)
・売掛金回収・買掛金支払のサイクル(サイクルの長短で運転資金が決まる)
・投資計画 (設備投資は修繕・補修・新規投資などに分けておく)
・資金調達計画 (経常利益、減価償却、借入金の増減などを考慮する)
このように、資金繰り表には旅館経営のほとんどすべての要素が確認できる指標が入りますので、極端にいえばこの資金繰り表が精緻に作成されているだけで金融機関との信頼関係を築くこと可能となります。
中長期事業計画
次に、金融機関が必要とするものは、中長期(通常は3年~5年程度)の事業計画になります。資金繰り表は1年程度の資金の増減を表すものですが、この事業計画については長期の借入金の返済計画が必要となります。平均宿泊客単価や日帰り客単価とそれぞれの稼働率など部門別の販売計画とそれに伴う根拠のある経費計画を勘案したキャッシュフローを算定し、そこから設備投資などの準備金を差し引いたフリーキャッシュフローで銀行借入が弁済できるように作成されていなければ、銀行は追加融資などを検討することができません。この事業計画を作成するうえには、建物・設備に長期的に必要となる資金を可能な範囲で見積もっておく必要があります。
さいごに
金融機関の融資は5年程度が限度となりますが、不動産資産の投資回収には10年、20年かかることから、そのような長期の見通しと事業継続計画を持ち、なおかつ直近の資金繰りが安定していることを理解できる資料を会社側できちんと作成、活用できていることが求められます。しっかりとしたファイナンスの知識を身に付けて金融機関と対等のお付き合いをしていかれることをお勧めします。