持続化給付金に雇用調整助成金、そしてコロナ融資など、可能な限りの金策に走れども、宿泊事業者の皆様は当座の運転資金に不安を抱える毎日をお過ごしかと思います。少しでも資金調達をしたい!現金売上を作りたい!と、ここ数週間で急激に「先払い予約」を始める宿泊施設が増えてきました。「先払い予約」とは、宿泊代金を先払いで頂く予約です。先に代金を受け取ることで、今、手元に現金が入ってくるという訳です。日本と同様に、欧米のホテルでも、資金調達の為に「先払い予約」の客室販売が活発化してきました。
欧米ホテルの事例
例えば、アメリカ・カリフォルニア州サンディエゴのビーチリゾートホテル「パシフィック テラス ホテル」(https://www.pacificterrace.com/)では、未来の宿泊に使える100ドル分のクーポン券を今購入すると、25ドル分のギフト券が付いてきます。
イギリス湖水地方で複数のホテルを経営する「イングリッシュ レイクス ホテルズ」(https://englishlakes.co.uk/)は、新型コロナウイルスの影響で現在休業中。しかし、未来の宿泊クーポン券を期間限定で割引販売しています。50ポンドの宿泊クーポン券を45ポンド(10%オフ)で、100ポンドの宿泊クーポン券を85ポンド(15%オフ)で、150ポンドのクーポン券を127.5ポンド(15%オフ)で、200ポンドの宿泊クーポン券を160ポンド(20%オフ)で販売。クーポン券の有効期限は通常12ヶ月間ですが、セール期間中に購入した場合は有効期限を18ヶ月間に延長しており、安心して購入できるようにしています。
フランス・パリにある「プリンス アルバート モンマルトル ホテル」(https://www.hotelprincemontmartre.com/)も、新型コロナウィルスの影響で2020年5月11日まで休業中。その後の営業再開の目途はついていない状況です。しかし、未来の客室販売には積極的です。営業再開後の宿泊代を最大20%オフにしたり、宿泊日の48時間前までであればキャンセル料を無料にしたりと、今すぐ予約をしてもリスクがないことを強調した客室販売を行なっています。
この他、欧米の各ホテルでは、朝食無料、マッサージ無料、客室無料アップグレード、豪華アメニティセットプレゼントなどの特典を付けることで、未来の宿泊を何とか今獲得し、その代金をすぐに獲得しようと様々な工夫をしています。
ポータルサイトも登場
ホテル/旅館が自力で「先払い予約」を販売する一方で、日本における「種プロジェクト」(https://save-ryokan.net/)のように、欧米でも複数ホテルの「先払い予約」プランをまとめて紹介・販売するサイトが登場しています。その一つ、「ホテルクレジット」(https://hotelcredits.porterandsail.com/)では、20以上のホテルの宿泊クーポン券が割引価格で販売されています。
しかし、課題も・・・
①補償の問題
少しでも多くのキャッシュを獲得したい宿泊事業者としては、「先払い予約」も資金繰りの一つとして考えたいところでしょう。そして、ホテルや旅館を応援したい宿泊客にとっても、「必ず泊まりに行くからね!」の気持ちを具体的な形にして宿に届けることができます。しかし問題もあります。新型コロナウイルスの影響が長引く可能性もあることから、予約をした宿泊施設がいつ再開するかが不透明なのです。そして、長引けば長引く程、宿泊施設の倒産リスクは高まります。「先払い予約」をして宿泊代金は支払い済みだが、宿泊予定だったホテル/旅館が倒産してなくなってしまった、という事態に陥った場合、宿泊者は泣き寝入りするしかないのでしょうか。宿泊者はそのリスクを承知の上で、「先払い予約」をするべきなのでしょうか。これでは、安心して、ホテル/旅館を応援しようという気にはなり難いでしょう。
②将来的にキャッシュアウトするかも知れない問題
「先払い予約」は、未来の売上(現金)を先に受取るわけですから、宿泊当日は現金をほとんど得ることができません。つまり、「先払い予約」で客室が売れれば売れるほど、当座の運転資金は助かりますが、未来のキャッシュフローが無くなってしまうのです。現在と未来のトレードオフなのです。
観光・宿泊業界を可能な限り早期に活性化させるためには、これらの課題について行政や金融機関による何かしらの支援/補償が必要かも知れません。または、旅行代理店や地域の旅館組合などが独自の補償制度を設けて、「先払い予約」を入れた宿泊施設が倒産した場合は、代りの宿を提供する仕組みが必要かも知れません。「先払い予約」の販売が今後も増加するのであれば、これらの課題と解決策について早急に議論する必要があります。