本稿では、コロナショックの中で営業するホテルや旅館が、どのように集客し売上を上げればよいのか? そのヒントとして、実施に効果があった売上UP策を紹介します。
なお、自粛要請が全国に発令されている中で営業を継続・再開する是非については、ここでは議論しませんのでご容赦ください。事業者それぞれの事情とご判断にお任せいたします。
感染リスクの徹底管理が、集客の武器になる!
コロナ以前の宿選びの基準は、周辺地域の魅力・観光資源/施設の魅力/交通の便/プラン&価格などでした。しかし、コロナショックの今は、その選定基準が大きく変わりました。正しくは、変わったのではなく、新たに重要な選定基準が加わったと言えるでしょう。それは「新型コロナに対する安全」です。コロナ騒動が落ち着くまでの一時的な基準かも知れませんが、いずれにしても、今現在は外すことのできない重要な基準であることは確かです。
それでは、どうすれば「新型コロナに対する安全」を構築し、「ココなら行きたい宿」になれるのでしょうか? 他業界の成功事例も交えながら売上UPに繋がる策を考えてみます。まずは、おもてなしの最高峰、正規輸入車ディーラーの成功事例からご紹介します。
感染しない、させない!
カーディーラーは、新車の販売のみならず、車検/点検/車両トラブルなど、修理点検整備のために日々お客様がご来店されます。自動車の修理点検整備は、お客様の生活の足を守る大切なサービスなのです。そのため、お客様や従業員からコロナ感染者が出たら大変です。お店を閉めなければならず、多くのお客様にご迷惑が掛かります。くわえて、休業は経営的にも大きな痛手となってしまいます。そのため、セールススタッフもメカニックも全員マスクの着用が義務づけられました。しかし、それだけで充分でしょうか? 確かに感染リスクを下げることはできますが、店舗スタッフだけがマスクを着用するだけでは不十分だと当該ディーラーは考えたのです。そこで、ご来店のお客様にもマスクをプレゼントして、お互いに感染しない、させない配慮をすることになりました。
実施方法は至ってシンプルです。ご来店時に、ご挨拶とともにお一人一枚ずつマスクを手渡しし、事情説明とお客様の安全のためにもマスクの着用をお願いしただけです。ここで大きなポイントが1つ。配布したマスクは、個包装されたマスクであったことです。これが大変喜ばれました。裸のマスクを手渡ししたり、数十枚入りのボックスからお客様に1枚マスクを取って頂く形式ですと、そのマスクにウイルスが付着している心配が残ります。実際は、箱から出したばかりのマスクにウイルスは付着していないかも知れません。しかし、なんだか気分的によろしくないわけです。実はこの「気分的に」がとても重要なのです。だから、個包装のマスクが大変喜ばれ、「流石、〇〇〇(自動車メーカー名)!」と評価頂いた訳です。ちなみに、個包装マスクを配布した結果、週末の新車試乗フェアにはいつもより多くのお客様にご来店頂き、コロナ騒動前に立てていた4月度の売上目標を越える受注を得ることに成功しています。
さて、この事例は、すぐにでもホテル・旅館でも実施できますね。個包装マスクの購入費用は掛かりますが、お客様と従業員を新型コロナウイルスの感染から守り、感染者発覚による休業リスクも低減させられるのであれば、保険料としてそう高くはないはずです。危機管理をしながらもお客様に喜ばれる、一石二鳥の策ではないでしょうか。
コンビニの冷蔵庫のドアが足で開けられる
ちょっとした配慮として、足で開けられるコンビニの冷蔵庫(動画リンク)が話題になっています。ドアノブ、電車のつり革と同様に、コンビニの冷蔵庫のドアノブに触れたくないとの声が多いそうです。そこでコンビニオーナーが考えたのが、足で開けられるよう工夫した冷蔵庫のドアです。百聞は一見にしかず、是非動画をご覧下さい。個包装のマスクと同様に、お客様に対する施設側の姿勢が、ちょっとした配慮に見え隠れするのです。リスク管理でもあり、おもてなしでもあると言えるのではないでしょうか。
この事例をヒントにするならば、チェックイン後エレベーターまでお送りし、スタッフが目的階のボタンを押すといった配慮ができるでしょう。稼働が低い今だからこそ出来るひと手間かもしれません。また、ルームキーをアルコール消毒しビニール袋に入れた状態でお客様にお渡しすることもできます。見た目が悪くなるため実施するか否かは施設次第ですが、きちんと説明を添えてルームキーをお渡しすれば、見た目より安全への配慮を評価してくださるお客様は多いはずです。
人の接触を極限まで減らす
三密は感染リスクを高めますが、三密でなくとも他者との接触機会が多いことも感染リスクを高める原因となります。そこで、前述の輸入車ディーラーでは、感染リスクを減らすため、ご来店時に、一人の担当が最後まで接客対応させて頂く旨を伝えることとしました。実は、輸入車ディーラーでは、コロナに関係なく一人の担当者が最後まで接客するのは概ね当たり前です。しかし、互いの感染リスクを低減させるための配慮を怠らない姿勢がとても高評価に繋がりました。ずるい様ですが、わざわざ伝えることも大切なのです。今は、「きっと配慮してくれているだろう」という暗黙の配慮・おもてなしではなく、しっかりと言葉で伝え、そして安心して頂くことも立派なおもてなしなのです。
この事例に学ぶならば、ホテルや旅館でのチェックインからチェックアウトまで、1組のお客様を1人(また極限られた人数)で担当する担当制にすればよいのです。どのスタッフがどのお客様を担当するかが決まっていれば、他者との接触を極限まで減らすことできます。特に旅館では、お部屋のご案内からお食事の提供までを決められた同一人物(または数人)が担う担当制を導入すれば実現可能です。専属のコンシェルジュスタイルです。お互いの安全を確保しながら、気持ち良く安心してお過ごし頂け、更には施設への印象も大分良くなるでしょう。これもまた一石二鳥です。
スタッフ同士の接触も極限まで減らす
ここでちょっとブレイク。これは売上UP策とは異なりますが、複数店舗を擁するホテルや旅館の場合、店舗間のスタッフの移動は禁止にするのが賢明でしょう。誰かしらが店舗間を移動している場合、1施設でコロナ感染者が出れば全施設を休業せざるを得なくなります。感染拡大を防止しつつ、万が一の損失を最小限に抑えるためには、店舗間移動によるリスクを排除しなければならないのです。現場スタッフには不便を掛けることになるかと思いますが、危機管理の観点からご一考頂きたく思います。
高齢者専用の時間を設ける
さて、欧米のスーパーマーケットでは、高齢者しか入店できない高齢者専用のお買い物時間を設けたところ大好評です。そして、高齢者だけに好評なのかと思いきや、高齢者以外にも大変好評なのです。高齢者以外のお客様としても、知らぬ間に高齢者へ感染させてしまうリスクが減らせるからです。この高齢者専用の〇△時間は、日本でも急速に広がりつつあります。生活協同組合の「コープこうべ」では、2020年4月8日より兵庫県と大阪府北部の全99店舗で、開店から30分間を65歳以上の高齢者、障害者、妊婦らの専用時間としています。また、東京都の小池知事は、高齢者や妊婦専用買い物時間の設置を業界団体と連携して進めていくと発表をしました(2020年4月23日)。このような取組みは好評なだけではなく、「だからココで買いたい」との声を多く集めています。つまり、感染リスクの徹底管理が、集客の武器となっている好例と言えるでしょう。
このような取組みは、ホテルや旅館でも実施可能です。ピーク時前後に高齢者ら専用のチェックイン/アウトタイムを設ければよいですし、入浴時間や食事の時間を棲み分けることもできます。オペレーション上は、不都合があるかと思いますが、有事の柔軟な対応が今後の営業/経営に大きな影響を与えるかも知れません。
新しい取組みにチャレンジする
飲食店がテイクアウトや宅配サービスを始めたように、ホテルや旅館でも同様の取組みができます。お越し頂くビジネスモデルから、お届けするビジネスモデルへのチャレンジも、事業継続には価値あるものとなるでしょう。また、お土産物などのネット通販に力を入れるのも良いチャレンジとなるでしょう。今ならパソコンの前にじっくり座って作業をする時間が取りやすいかも知れませんね。この他、クラウドファンディングを活用して、未来の宿泊代金を先にご入金頂き、当面の運転資金に回すことも出来るでしょう。「どうせ大した額は集まらない」との声が聞こえて来そうですが、今だからこそ新しい取組みにチャレンジすることが大切なのだと思います。すべてはトライ&エラーの連続です。たとえ失敗が続いたとしても、従業員一丸となって難局を乗り切ろうとする経験は、今後の士気を高め、より強固なチームビルディングに繋がると信じたいものです。
まとめ
以上、他業界で効果のあった売上UP策をご紹介するとともに、その応用アイディアを考えてみました。万策尽きたときは、少し背筋を伸ばしてキョロキョロと他業界の取組みを眺めてみるのも悪くありません。意外な所から着想が得られることもあるのです。今後も本サイトにて、様々な情報発信を行なって参ります。少しでも皆様のお役に立てればと思います。何かご質問が御座いましたら、ご遠慮なく質問フォームよりメッセージをお送りください。コロナショックの真っ只中で、一寸先がどうなるのかは誰にも解りません。しかし、一緒に考えることはできます。一緒に、この難局を乗り越えましょう。